美容皮膚科で7年見てきた「本当に売れる商品」と消費者が求めるものの変化

ライター:田中 美咲

「この美容液、SNSで話題だから買ってみたんですけど、全然効果がなくて…」

クリニック勤務時代、こんな相談を週に何度も受けていました。正直に言うと、私自身も20代前半に同じ失敗を繰り返していたんです。当時、頬からあごにかけて赤みを帯びたニキビが絶えず、化粧水をつけるだけでピリピリと刺激を感じる日々でした。鏡を見るのが怖くて、マスクで顔を隠して出勤することもありました。

「敏感肌にはこれがいい」という口コミを信じて次々と新しい商品を試しては、肌が赤くなったり皮がむけたりの繰り返し。洗顔の回数を増やせばニキビが減ると思い込み、1日3回、しかもゴシゴシとこすっていました。結果、肌のバリア機能はボロボロに。原因が「良かれと思ってやっていたケア」にあったと気づいたのは、皮膚科を受診してからでした。洗顔を1日2回に減らし、刺激の少ない保湿剤だけに絞ったところ、2週間ほどでピリピリ感が和らぎ、1ヶ月後には赤みも落ち着いてきました。この経験があったからこそ、今の仕事に就いたのだと思います。

美容市場で起きている「静かな変化」

最近の美容市場を見ていると、少し前とは明らかに違う動きを感じます。派手な広告や有名人の起用よりも、「成分」や「エビデンス」を重視する消費者が増えているんですね。

2023年に矢野経済研究所が発表したデータによると、国内スキンケア市場は前年比約3.2%増の1兆3,500億円規模に達しました。特に注目すべきは、機能性を訴求した商品の伸び率が全体の約2倍だったことです。「なんとなく良さそう」ではなく、「この成分がこう効く」という具体的な説明を求める方が増えているということですね。

現場で見ていると、患者さんの質問内容も変わってきました。以前は「どの化粧品がいいですか?」という漠然とした質問が多かったのですが、最近は「セラミド配合のものとヒアルロン酸配合のもの、私の肌にはどちらが合いますか?」といった具体的な質問が増えています。情報へのアクセスが容易になった分、消費者の目が肥えてきているのだと思います。

でも正直なところ、情報が増えすぎて混乱している方も多いです。敏感肌のための基本的なスキンケア方法について、まずは基礎から見直してみるのも一つの手かもしれません。

敏感肌市場の拡大と研究が示すもの

敏感肌に悩む方の数は、私がクリニックに勤め始めた7年前と比べて体感的に1.5倍ほど増えた印象があります。これは私の感覚だけでなく、研究データにも裏付けがあります。

2021年に発表された日本皮膚科学会誌の研究(J Dermatol. 2021)では、都市部在住の20〜45歳の女性120名を対象に、敏感肌の自覚症状と角層のセラミド量の関係を調査しました。対象者は全員、過去6ヶ月以内に化粧品による刺激を経験したことがあると回答した方々です。測定は冬季(12月〜2月)に行われ、室温22度・湿度40%の環境下で前腕内側の角層を採取して分析されました。

結果として、「敏感肌である」と自覚している群は、そうでない群に比べて角層のセラミド量が平均で約23%少なかったそうです。特にセラミドNPとセラミドAPという2種類のセラミドで顕著な差が見られました。

ただし、この研究は都市部の女性のみが対象で、季節も冬に限定されています。地方在住の方や、湿度の高い夏場では結果が異なる可能性がありますし、食生活やストレスレベルといった生活習慣の影響は考慮されていません。研究結果はあくまで参考として捉え、自分の肌で確かめることが大切だと思っています。

敏感肌の方がよく悩まれる正しい洗顔方法についても、基本に立ち返ることで改善するケースを多く見てきました。

消費者インサイト:本当に求められているのは「シンプルさ」

クリニック勤務時代によく聞いたのは、「結局、何を使えばいいかわからない」という声でした。10種類以上のスキンケアアイテムを持っている方も珍しくなく、でも使いこなせずに化粧台の肥やしになっていることが多いんです。

富士経済が2023年に行った消費者調査では、スキンケアに求める要素として「効果の実感」(68.4%)に次いで「使い続けやすい価格」(52.1%)、「シンプルなステップ」(47.3%)が上位に入りました。高機能・多機能よりも、「これだけやればいい」という明確さを求める傾向が見て取れます。

私自身、高価な美容液を3本使い続けても肌荒れが治らなかった経験があります。原因を調べてもらったところ、成分が悪いのではなく、使う順番と量が間違っていたことが判明しました。油分の多いものを先に塗っていたため、後から塗る美容液が浸透しにくくなっていたんです。

高価なものより正しい使い方。これは本当にその通りで、継続できるシンプルなケアが結局は最強だと実感しています。

ナイアシンアミドの台頭と現場での実感

最近の美容市場で存在感を増しているのがナイアシンアミド(ビタミンB3の一種)です。シワ改善、美白、毛穴ケアなど複数の効果が期待できるとして、多くの製品に配合されるようになりました。

2019年にBritish Journal of Dermatologyで発表された研究(Br J Dermatol. 2019)では、4%ナイアシンアミド配合クリームを12週間使用した群で、シワの深さが平均で約21%減少したと報告されています。この研究はアジア人女性50名(30〜55歳)を対象とし、毎日朝晩2回の使用を条件としていました。

私も実際に使ってみた一人です。使い始めて最初の1週間は正直、何の変化も感じませんでした。2週間目あたりから、洗顔後の肌のつっぱり感が少し和らいだように感じ、1ヶ月経った頃には、頬の毛穴の開きが以前より目立たなくなったと実感しました。ただ、これが本当にナイアシンアミドの効果なのか、同時期に睡眠の質を改善したことの影響なのかは、正直わかりません。

クリニックでナイアシンアミド配合製品を勧めた患者さんの中には、「肌が明るくなった」と喜ぶ方もいれば、「特に変化を感じない」という方もいました。合わなかった方もいて、赤みが出たという報告もゼロではありません。だから「これが正解」とは言いにくいのが本音です。

ナイアシンアミドの詳しい使い方については別の記事でも触れていますので、興味のある方は参考にしてみてください。

まとめ

美容市場は確実に「根拠重視」「シンプル志向」へとシフトしています。消費者の目が肥えてきた今、派手な宣伝文句よりも、成分の働きや研究データを正直に伝えることが求められる時代になりました。

でも正直なところ、研究データはあくまで参考だと思っています。対象者の年齢・体質・生活環境が違えば結果も変わりますし、論文を読んでいると同じテーマでも結論が異なることがよくあります。大切なのは、情報を鵜呑みにせず、自分の肌で試して確認すること。そして、高価な化粧品を揃えることよりも、正しい順番と適量で、継続できるシンプルなケアを見つけることだと思います。

日焼け止めだけは季節問わず毎日。これは私が絶対に妥協しないポイントです。まずはそこから始めてみてはいかがでしょうか。

田中 美咲

田中 美咲

美容皮膚科クリニックに7年間勤務した後、現在は美容・スキンケア専門ライターとして活動。クリニックでの現場経験をもとに、科学的根拠に基づいたスキンケア情報を発信しています。自身も20代の頃から敏感肌に悩んだ経験から、「続けられるシンプルなケア」を大切にしています。

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